イントロダクション

青木豪×シェイクスピアの幸福な出会い!


 青木豪氏が初めてシェイクスピア作品を演出したのは、2011年、俳優集団D-BOYSによる「Dステ」で上演した『ヴェニスの商人』でした。20代のキャストを中心に、“どこかの大学でリハーサルをしている”というコンセプトで演出し、俳優と役との二重構造を表現。その自由な発想が現代と共鳴し、“お堅い古典”を見事に現代に蘇らせました。


 そして2013年上演の『十二夜』では、上演台本も自らが手掛け、“神社で人々が遊んでいる様子”をコンセプトに上演しました。それは、前作『ヴェニスの商人』の稽古中、東日本大震災やそれに伴う計画停電などを体験した青木氏が強く抱いた「劇場や電気がなくても人がいて、そこに役者がいれば芝居は生まれる」「劇場にいる時は日常を忘れて、この世界を楽しんでほしい」という想いから、日本におけるそんな魔法の空間はどこだろう、と考えた結果でした。その“人々が集まる日本のお祭り”が舞台と客席に一体感をもたらし、「こんなに笑えるシェイクスピアは初めて!」との声をたくさんいただきました。

 

 第三弾となる2016年、シェイクスピア作品の中でも群を抜いて喜劇性に満ちた戯曲『お気に召すまま』を上演。前作『十二夜』で見つけた、「どこでも誰でも、人々が集まって遊びのように楽しむのが演劇という娯楽だ」という大きなテーマのもと、“どこにでもあるマンションの中庭”をコンセプトに、時を超えても変わらない恋する喜び、人を愛する幸せをロマンティックに描き、劇場は幸福感で満たされました。


 これら「Dステ」での3作を通し、難しく捉われがちなシェイクスピアの戯曲を、日本におけるシェイクスピアの第一人者、松岡和子氏の翻訳をもとに大胆なアレンジと演出でかみ砕き、老若男女が楽しめる作品としてお届けしてまいりました。

 その他にも青木氏は、シェイクスピアの悲劇『リチャード三世』を源頼朝の弟、源範頼に置き換えて翻案した『鉈切丸』の脚本、劇団四季『恋に落ちたシェイクスピア』の演出を務めるなど、様々な形でシェイクスピアの面白さを多くの観客に伝えています。


 そして2020年、再びお届けする『十二夜』。

 「笑い」がもたらす幸せの大きさは、いつの時代も計り知れないと感じます。東京オリンピックを控え、時代や人が替わろうとしている今、その多幸感をより多くのお客様と共有することを目指し、パワーアップした『十二夜』上演いたします。


 日常を忘れ、私たちと遊びにいらっしゃるお気持ちで、ぜひ劇場へ。


【2013年上演 Dステ『十二夜』レビュー】


▽演劇ジャーナリスト・徳永京子様Twitter より

出演者全員が上手く、そして魅力的に見えたのは、間違いなく演出の青木豪の力だろう。劇作家としての仕事が多い青木だが、演出家としても相当の手腕の持つことが、この作品だけでもわかると思う。客入れ時から始まって全編に渡り楽隊を使っていたのだけれど、神社での奉納劇という和の仕掛けとシェイクスピア劇をくっつけたり、生真面目にやると微妙になりがちなシーンをカットアップさせる際に、楽隊ののどかな音色をとても有効に使っていたのだ。ドタバタを任せられる俳優の見極め、あるいは「この俳優に任せられる笑いの時間はここまで」という見極めも的確だったと思う。ポテンシャルを感じさせる俳優はいてオリヴィア役の池岡亮介、セバンスチャン役の荒井敦史は、この役がこんなに魅力的に思えたのは初めてかも、なくらい。そして芸人・坪倉由幸の力みのない達者さにびっくり。


▽高野しのぶ様主宰「しのぶの演劇レビュー」より

特筆すべきは、舞台装置が神社だったこと。舞台中央の屋根のある美術は、能舞台のようでもあり、お祭りのやぐらのようでもあります。お芝居が始まる直前、役者さんは客席に背を向けて横一列に並び、神社に向かって二礼二拍手一礼をしました。この礼が行われた時、それまで沸いていた客席が一瞬で静かになり、厳かな空気が劇場を満たしたのです。「紀伊国屋神社にお芝居を奉納する」という構造になっているのだと解釈しました。私にとって「奉納する演劇」は震災以降の1つのテーマでもあり、今、この時に古典喜劇を若者が上演する意味を考える上でも、しっくり来ます。1600年代から変わらないバカ騒ぎや恋愛騒動を、神様の前で愉快に、懸命に演じることは、人間が自らの命に感謝し、演者と観客が一緒にそれをことほぐ行為(行事)だと受け取れるからです。


▽「BUTAKOME」より(田窪桜子様)

シェイクスピアは高尚で、難しそうと思っていたらもったいない。こんな楽しいものだったのだと改めて気づかせてくれる、ハッピーな舞台だ。「十二夜」は、俳優集団D-BOYSのメンバーを中心に男優だけで上演しているのが特徴。とにかく、出演者と同じ空間にいるのがうれしくなってくる幸せ感に満ちている。

劇場に入ると、えっ!?シェイクスピアだから英国だと思いきや、劇場は紀伊國屋神社に様変わり。出演者が舞台奥の神様に一礼して、物語は始まる。「これはお芝居なんですよ」と前置きしながら、すーっと物語へ入っていく導入が心地よい。ロンドン留学から帰国したばかりの青木豪が、帰国後最初に手掛けた作品。シェイクスピアってこんなに楽しんですよと両手で差し出してくれながら、しっかり演出意図が盛り込まれているのがステキなのだ。

青木は「日常の辛いこと、いやなことを忘れる場所に」と演出したという。その言葉の通り、日常を忘れて思いっきり笑っていたら、いつのまに元気ももらえていた。シェイクスピアの喜劇を知らなきゃ人生損をする。幸せなひとときを味わいに、ぜひ劇場へ。


【過去上演作公演データ】


■D-BOYS STAGE 2011『ヴェニスの商人』

東京・2011年4月29日(金・祝)~5月8日(日)サンシャイン劇場

大阪・2011年5月13日(金)~15日(日) イオン化粧品シアターBRAVA!

出演:碓井将大、和田正人、加治将樹、鈴木裕樹、柳浩太郎/三上真史、足立理、高橋龍輝、牧田哲也、山口賢貴/名取幸政/酒井敏也 他

■Dステ14th『十二夜』

東京・2013年10月4日(木)~10月13日(日)紀伊國屋ホール

大阪・2013年10月17日(木)~10月20日(日)ABCホール

出演:碓井将大、三上真史、池岡亮介、荒井敦史/加治将樹、鈴木裕樹、陳内将/山田悠介、近江陽一郎、山口賢貴/坪倉由幸(我が家)、ミッキー・カーチス 他

■Dステ19th『お気に召すまま』

東京・2016年10月14日(金)~30日(日)本多劇場

山形・2016年11月12日(土)~13日(日)シベールアリーナ

兵庫・2016年11月19日(土)~20日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

出演:柳下大、石田圭祐、三上真史、加治将樹、西井幸人、前山剛久、牧田哲也、遠藤雄弥、松尾貴史、鈴木壮麻、大久保祥太郎、山田悠介 ※台本の登場順 <楽隊>Dr.Bennie、西出和真